一度は富士山に登ってみたいけど、標高が高いから、高山病にならないかが心配です。
高山病にならないために、自分でもできる対策はありませんか?
はじめて富士山に登ろうとしている人や3000メートルを超えるような標高の高い山に登ったことのない人は、こんな悩みを抱えているかと思います。
この記事では、標高の高い山に登る際には常についてまわる高山病について、その仕組みと対策について解説していきます。
<この記事の信頼性>
- 筆者は登山歴9年。
- これまで日本百名山をガイドやツアーなしで80座登ってきた実績があります。
- 富士山は2回登頂に成功しています。
- 背伸びをしない分かりやすい文章を心がけています。
富士山に登るには高山病の知識と対策が必要です
富士山は、日本人なら誰もが知っているとおり、日本一標高の高い山です。
え? そんなこと知ってるって?
でも、富士山に登ろうとして残念ながら登頂できなかった人の多くは、高山病の症状がひどくなってなって、やむなく下山を強いられているという現状を知っていますか?
高山病になると、めまいや頭痛、吐き気などをもよおしてきます。
登山中に気分が悪くなると、山頂を目指すモチベーションがグッと下がります。
体調が悪い時の登山は、本当に心が折れます。
また、高山病が重症化すると、死に至ることもありますので、決して見逃せないポイントですよね。
もちろん個人差はありますが、標高2000メートル程度から徐々に高山病の症状が出はじめる人が出てきます。
MSDマニュアル家庭版によると、2500メートル登るとなると約20%、3000メートル登ると約40%の人に何らかの高山病の症状が現れるそうです。
富士山の標高はというと、3776メートル。
どうやら富士山の山頂にいる人の半数以上は、大なり小なり高山病になっているということがいえそうです。
高山病になる原因と症状
標高の高いところに行くと、気圧の低下によって酸素が薄くなるため、体内に取り込める酸素の量も少なくなります。
また、乾燥した高所での登山で失われていく水分が十分に補給されない状態が続くと、血液内の水分が減り血液がドロドロとしていきます。
血液がドロドロになると体全体に十分な酸素が行き渡らなくなります。
徐々に体は慣れないこの状態に順応することができなくなり、さまざまな症状が出てきます。
これが高山病です。
高山病になると様々な症状が出始めます。
①急性高山病
軽度の高山病で、最もよくみられます。
頭痛のほかに、ふらつき感、食欲不振、吐き気と嘔吐、疲労、脱力、怒りっぽさなどの症状が出ます。
「二日酔いと似た症状」と表現されることもあります。
②高所肺水腫
頭痛、錯乱、歩行時にフラフラするなどの体の不調が現れます。
早い段階で処置をしないでいると、昏睡状態に至ることがあります。
軽い症状から生命を脅かす状態まで数時間以内に急速に進行します。
③高所脳浮腫
軽い症状では、乾いたせきや軽い動作の後に息切れがみられます。
中程度の症状には、安静時での息切れ、皮膚・唇・爪が青くなるなどがあります。
重度の症状には、あえぎや、たんがピンク色になったり血が混じる、重度のチアノーゼ、呼吸時にゴボゴボという音が聞こえることがあります。
地肺水腫は急速に悪化することがあり、数時間のうちに、呼吸不全、昏睡、そして死に至る可能性があります。
MSDマニュアル家庭版
これは、実話です。
登山を始めて間もない頃に、はじめて夫婦で富士山に登った時のことです。
8合目手前あたりで、妻に明らかな高山病の症状が出ました。
頭が痛いというのはだいぶ前から言っていたのですが、急に眠たいと言って登山道の真ん中で座り込み、そのまま寝ようとし始めました。
また、真夜中で気温が低く冷たい風も吹いていたので、防寒具を着せようとしたら、「暖かいからいらない」と言うのです。
軽い意識障害と昏睡状態になり始めていたのかもしれません。
これはまずいと思い、すぐに7合目まで高度を下げて休憩することにしました。
その後、十分な休憩と水分補給をしたら徐々に体調も回復し、最終的には山頂までたどり着くことができたのですが、今思うと改めて高山病は怖いですね。
高山病になった場合に出る具体的な症状と、症状が悪化すると最悪どうなるのかといったことは、最低限把握しておいた方がよさそうですよね。
高山病の予防と対策
高山病の症状の話をしていると恐ろしくなってしまい、登山なんてするものじゃない、って思ってしまいましたか?
でも、しっかりとした予防と対策をしておけば、そんなに難しく考える必要はないですよ。
実際、毎年富士山には、登山初心者の人でも多くの人が山頂まで登れているわけですから。
では具体的な対策方法について見ていきましょう。
十分な睡眠をとる
高山病に限らず、登山をする上で最も大事なことは、体調管理です。
その中でも一番大切なのが、十分な睡眠を取ることです。
高山病の症状として、頭痛やふらつき感、疲れ、脱力といったものがあるということを先ほど紹介しました。
言ってみれば、寝不足と同じ状態ですね。
高山病になれば、寝不足のような状態になる可能性があるというのに、もともとが寝不足の状態で登山を開始したらどうでしょう。
言い方は変ですが、最初から高山病になっているようなものです。
これから登ろうとしているのは、日本一標高の高い富士山ですよ。
とても最後まで登れる気がしませんよね。
おすすめは、5合目の山小屋に前泊するということです。
標高2300メートルでゆっくりと高度に体を慣らすことが重要です。
登る前に5合目で1時間くらい滞在しておけば、標高慣れができるという人もいますが、あまりおすすめできません。
山頂まで近いからと、7合目や8合目の小屋に泊まろうとすると、一気に標高を上げることになるので、高山病になるリスクが高まります。
ちなみに、山梨県側の吉田ルートの8合目は、標高3040メートルあります。
日本の山には山小屋がたくさんありますが、実は3000メートルを超える高所にある山小屋は、富士山を除けば数えるほどしかありません。
日本人なら誰もが知っている富士山は、実はとても異常な環境下にあるということを認識しておいてください。
高山病になるリスクから、登山者の中には、標高の高い場所にある山小屋に泊まることを避ける人もいます。
ベストなのは、5合目で前泊してさらに7合目や8合目の小屋にも泊まることです。
時間と費用がかかりますが、人生に一度は富士登山と考えている人なら、これくらいしても全然浪費ではありません。
今後も何度か富士山に登る気持ちがあるのであれば、話は別ですが。
高山病対策の最も基本となる睡眠を甘く見てはいけません。
ぜひ無理のない計画を立てるようにしましょう。
こまめな水分補給を心がける
登山中にできる高山病の対策として、有効なことのひとつにこまめな水分補給があります。
標高の高い山に登ると、空気が薄くなるので乾燥します。また、相応の運動量になるので、大量の水分が消費されます。
まさに富士山に登るときがそうですよね。
大量の水分が消費されると、当然血液内の水分も不足します。
血液内の水分が不足すると、血液がドロドロになってきます。
そして血液が体全体に行き渡らなくなると、酸素も体全体に行き渡らなくなります。
そうすると高山病にかかりやすくなるというわけです。
なので、登山中にこまめな水分補給をすることが、高山病予防としてとても重要になってきます。
では、どれくらいの水を持って行けばいいか。
鹿屋体育大学・山本正嘉教授の研究によれば、下記の計算式を提唱しています。
「登山中に必要な水分量=自重(体重+ザック)×5×行動時間」
例えば、体重60kgで荷物が5kg、行動時間が仮に12時間(富士山の山頂往復にはこれくらいかかります)だとして、あてはめてみます。
(60kg+5kg)×5×12時間=3,900ml
どうですか?
4リットルですよ。
もちろん途中には山小屋がたくさんあるので、そういうところで補充するというのもありですが、富士山に登るには、基本的にこれくらいの水分を背負っていくことが必要だということです。
大量の水分が必要だということが分かったと思いますが、「こまめに少しずつ補給する」ということが重要です。
喉が乾いてからいっぺんに水を飲んでも、一度に体内に吸収される水分量にも限界があるので、ムダが多いといえます。
山での水はとても貴重なので、少しずつこまめに効率よく水分を補給するということが大変重要になってきます。
ぜひ実践してみてください。
とにかくゆっくりとしたペースで歩く
高山病にならないための最善の予防策は、ゆっくりと高度を上げることです。
短時間で高度を上げてしまうと、それに体が順応できなくなります。
富士山の登山道にはアップダウンや平坦な道がほぼありません。
ひたすらまっすぐ登っていくイメージです。
早く歩けば歩くほどどんどん高度が上がっていきますので、注意です!
登山初心者の人によくありがちなのが、一定のペースで登ることができないということです。
登り始めは体力も十分にあるので、どうしても前へ前へとハイペースで登ってしまいがちですが、すぐに疲れて休憩する羽目になりますし、富士山では高山病のリスクがグッと高まるので、絶対にやめてください。
ゆっくりと登るというのは、ある程度意識しないとできません。
でも、他の人とおしゃべりをしながらでも息が切れない程度であれば、それがちょうどいいペースだといえます。
先を急いでハイペースで登っても、ゆっくりであっても一定のペースで安定して登ってくる人には勝てません。
これは登山の鉄則です。
覚えておいてください。
深呼吸する、酸素を吸入する
富士山での登山中は、深い深呼吸するというのも大切になってきます。
富士山は標高がとても高い山です。
標高が高いので、酸素の濃度がかなり薄くなります。
空気が薄くなると、一度に体内に取り込める酸素の量が少なくなります。
そうすると頭がぼーっとしてきたり、だるくなったりして、足が前に進まなくなってきます。
高山病の軽い症状ですね。
8合目を過ぎて、9合目あたりになると本当にキツイです。
思考が停止して、足が鉛のように重く感じられて、前に進むのが非常に大変になってきます。
そしたら、いったん立ち止まって深く深呼吸をしてください。
ゆっくりと、深くですよ。
これを何度か繰り返してください。
そうすると、薄まっていた体内の酸素濃度が高くなっていくのが分かります。
頭が幾分スッキリとしてくるはずです。
そしてまた少しだけ歩く力が湧いてきます。
最後はこれの繰り返しになります。
必要であれば、携帯酸素ガスを吸うのもアリです。
思ったより効果はありませんが、心理的な安心感はかなりあります。
高山病への対処法として、また富士山に登るためのテクニックとして、こまめに深呼吸をするという行動もぜひ取り入れてみてください。
高山病になったら
富士山ほどの標高の高い山を登るとなると、いくら高山病の予防をしたとしても、大抵の人は何かしらの症状が出るものだと思っておいた方がいいでしょう。
実際、私は2回富士山に登っていますが、2回とも高山病になりました。
症状は軽いものの、頭痛やめまい、軽く意識が遠のくといった感じにはなりました。
私はこれまで100以上の山に登ってきました。
3000メートル級の山にもいくつも登ってきましたが、これだけはっきりと高山病の症状が出るのは、富士山だけです。
3000メートルくらいの山になると、なんとなく頭痛がすることはよくあることですが、さすがに意識がうっすらとしてくることはありません。
恐るべし、富士山というわけです。
で、逃れられない高山病になったらどう対処するかです。
まず最初にすることは、いったん立ち止まって体を休めるということです。
高度を上げれば上げるほど、高山病になりやすくなることは確実なので、いったん高度を上げるのやめるのです。
止まったら次に水を多めに飲みましょう。
そしてゆっくりと大きく深呼吸をしてください。
そして、頭痛がひどいならバファリンやロキソニンなどの鎮痛剤を飲むといいでしょう。
よく似た鎮静剤は呼吸を抑制する作用があるので、絶対に飲まないようにしてください。
休むところが山小屋の場合は、そのまま布団に入って寝ることはせず、付近を散策するようにしましょう。
そのまま布団に入って寝てしまうと、呼吸が浅くなり、高山病の症状が悪化するリスクが高くなります。
休憩をして水分をとり鎮痛剤も飲んでも、頭痛や嘔吐、運動失調などの症状がおさまらないようであれば、下山してください。
せっかくここまで登ってきたのだから、もう少し我慢して登ってみたいという気持ちはよく分かります。
でも、高山病が重症化すると、場合によっては死に至ることもあります。
早い場合、数時間で悪化することもあるようです。
命より大切な登山なんてないはずです。
基本的なことですが、登山では途中で下山をする勇気も必要です。
山頂に立つことよりもリスク管理ができることの方が重要になります。
もし遭難したら、救助のために人が動くことになりますし、莫大なお金がかかります。
別に道に迷うことだけが遭難ではありません。
山の中で身動きが取れなくなって自力で下山することができなくなれば、即遭難ということになります。
高山病になってしまって症状が改善しないということであれば、勇気を持って下山するようにしてください。
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